
「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。前にうちにちょっかいだして来たところあったよね〜。ああ、ここだわ。じゃあ私が何個かピンを打つからそこに飛んで頂戴ね」
そう言ってリーダーは敵の領地の真横に飛びました。
見るとなんとおそろしい、完全に喧嘩を売ってます。
車でいう、横にベタづけです。
「じゃあココとココとココに飛んできて〜」
リーダーがチャットで指示を飛ばしてくれます。
ですがちょっと怖すぎます。
こんなところに飛ぶなんて、、、。
でもここは信じるしかありません。
今までリーダーの言ったことで、間違ったことは一つもありませんでした。
「行くしかないー!」
と思ったのは僕だけではなかったようで、他のメンバーたちも次々に飛びます。
到着してみればやはり恐ろしい。
抜身の刀に裸で対峙しているかのようでした。
「まずは偵察よ! むやみに攻撃は絶対しないでね。偵察したらチャットにのせて」
といいながらリーダーの城からはガンガン騎馬がでていきます。
偵察をしまくっているというわけです。
「みんなこれを見て」
リーダーがチャットに偵察したデータを流します。
「まず敵の戦力を見るの。こいつは兵も弱いし、何考えているのか分からないけど、城を守る駐屯の武将もいない。それで結構資源持ってるわね。こういうのを見つけたら、攻撃よ。見といて」
そういうやいなや、リーダーの城から兵団が飛び出しました。
相手の城へと向かっていきます。
一瞬アクションがあった後、相手の城が燃えました。
「おお〜!!」
一同拍手喝采です。
「じゃあ戦闘結果を見てみて」
またリーダーが、次は戦闘結果をチャットにあげます。
「相手は、ありゃ、医館も少ないのね。この相手、結構死亡しちゃってるわね。ね、医館が足りないとこうなるから気をつけて。でこちらの損害はほぼないわね。これくらい戦力差があれば心配いらないってこと。で資材もしっかりもらえたわ。まだ残ってるから誰か攻撃してみて。相手はもう兵が0だから、完全にノーダメでいけるわよ」
そういわれて近くにいたメンバーが突撃しました。
「ほんとだ、特に被害でずに勝てました!」
こういった感じでリーダーの指示で少しずつ攻撃していきます。
「いい感じね。ただし援軍には気をつけてね」
「援軍?」
「同じ連盟同士は援軍を送ることができるの。偵察してこいつは弱いなと思って突撃するでしょ? その突撃しているあいだに自分より強いプレイヤーが援軍に入ってそこを攻撃しちゃったら、えらい目にあうのよ。援軍は非常に強力だから、進軍したらターゲットから絶対に目を離さないこと」
なななんと、そんな機能があるのですか。
と思っていたら、
ビコーん、ビコーんと警報です。
誰かに狙われている!
心臓が跳ね上がります。
見れば相手が僕の所に進軍してくるじゃあないですか!
偵察もなしですから、城レベルの低い僕をあなどっているのでしょう。
そしてそれは非常に正しく、僕の戦力はとっても低いのです。
「攻められる〜!どどどどうしましょう?」
「安心して。さっき言った援軍の強さを見せてあげるわ。みんなも見ておいて。味方が狙われたらこうやってフォローするの」
とはいっても相手の兵団はもう僕の城に届きそうです。
「うわーやられるうううう」
というところで、まさに神速の速さでリーダーの城から兵団が飛び出て、僕の城に入りました。
その一瞬後、相手の兵団が僕の城に到着します。
「ボロ勝ちね! 結果を見てみて」
戦闘結果には「勝利」の2文字。
こちらは負傷兵が少しでしたが、相手は、、、
「全員死亡……」
なんと相手は全損してしまったのです。
「これはちょっと可哀想なくらいね。こうなったら最悪引退よね。さてこの相手、ああ、資材もってるわね。じゃあここを攻めましょう。今ので兵いなくなったから怖くないわ。近くの人攻撃してみて。援軍がきたら撤退してね。援軍のヤバさは今のでわかったでしょ?」
たしかに援軍の効能は恐ろしいほどでした。
「なんかリーダー今めっちゃ速度早かったですけど?」
「ああこれはね、「加速」ってアイテム使ったのよ。貴重だからここぞって時に使うわけ。あのタイミングで使ったら撤退する暇ないでしょ? 慣れたら相手も使ってくるから気をつけてね」
驚きです。
このゲーム、コマンドは単純ですが、考えることがかなり多い。
味方はたくさんいるし、周りには何十の敵です。
援軍の要素と加速の概念が入るだけで、かなり複雑になったといえるでしょう。
あの城から出た援軍はたいしたことないけど、あの城の援軍はやばい、なんてのも気をつけなくてはなりません。
城同士の距離も重要になってきます。
そんなことを考えていると、戦争はどんどん激化していきます。
相手も反撃にでてきて、そこらじゅうで城が燃え上がっています。
「これは自分も一度くらい攻撃しなければ……」
そう思った僕はレベルの低い城に狙いを定めます。
ここは最初に偵察していて、兵も弱く、資源も多くはないけれでそこそこは持っている相手です。
もう心臓はずっとバクバクです。
ステージで演奏する比にもならないくらいドキドキです。
こんなに脳味噌から汁が出る状況は過去あったでしょうか。
僕は覚悟を決めました。
「突撃〜!」
相手は弱い、僕だっていけるはずです。
「あ、ダメよ。そこは撤退して」
「え、僕?」
「そう、撤退!」
撤退? 撤退ってどうやるんだっけ?
あ、このボタンか。これを――
『敗北』
ありゃ?
負け?
戦闘結果を見ます。
まさかの全損……。
壊滅です。
僕の兵は全員消滅してしまいました。
だけど一体なぜ……。
「そこはさっき援軍が入ってたのよ。偵察した?」
「最初にしたんですが……」
「なるほどね。偵察はね、攻める直前にもしないとダメなの。戦況は時間が経てば変わるから。でもそれもいっとくべきだったわ、ごめんね」
いや、これは完全に僕が悪い。
考えれば十分わかるはずのことだったのです。
城レベルだけで判断して、援軍など入っていないと勝手に判断した僕の責任です。
「ま、現レベルでの兵はすぐに作り直せるから、大丈夫よ。これが高レベルの兵ならちょっと痛かったけどね」
たしかにその通りで、僕の兵はレベルが低いので、作る時間も資材も少なくてすむのです。
「これは勉強代と思うことにします!」
と答えたように思います。
「さて、そろそろ帰りますか。うちは無意味な攻撃はしないからね。死体蹴りみたいなダサいことはダメよ〜」
これにて初陣は終わりました。
他のメンバーは初陣の初勝利に沸いていましたが、僕は苦い思い出が残りました。
次こそは!
という思いが、その後の躍進に繋がるのでした。
続く。