
テクニックより大事なことの方が圧倒的に多い
目次
ギターで飯を食いたい
はじめに

「プロのギタリストになるために必要なこと」
これは人の人生を左右する大切なことなので、丁寧に何回かにわけて書こうと思う。
このページを見ている人は少なからずプロギタリストになることを夢見ているはずなので、多少厳しいことも言うかもしれない。
でも嘘偽りは絶対にないと約束するので、どうか気を悪くせず、ぜひ何回も読んでみてほしい。
プロの定義

まず、プロギタリストって何、ということを定義づけしておかなくてはならないだろう。
というのもプロのギタリストと一口でいっても業態は様々である。
お金が1円でも発生するなら基本的にはプロギタリストだ。
バンドのギタリスト、スタジオギタリスト、ライブサポートギタリスト、セッションホストギタリスト、飲食店でのBGMを奏でるギタリスト、ギター講師、ギターYouTuber、等々である。そしてきっともっと沢山の業態があるはずだ。
〇〇なんかはプロじゃない、などと言う人もいるが、ギターを弾いてお金をもらうというのは大変なことだ。
もう一度言うが、1円でもギャラが発生するならプロである。
だがこのページを読んでいる人は「それはわかってるけどそうじゃないんだ」という思いを持っていることだろう。その気持ちも僕はわかっている。
ギターでプロになりたい人の大部分は
- 「レコード会社からCDをリリースするようなバンドのギタリスト」つまりはアーティスト
- レコーディング等に携わるスタジオギタリスト
- アーティストのライブに帯同する、ライブサポートギタリスト
をプロだと認識し、それになりたいと思っているはずだ。
そして1に関しては除外している人が多いのではないかと思う。
アーティストとしてギタリストが成功するためには、基本的には母体となるバンドがなければならない。(押尾コータロー氏のようなソロギタリストという例外はあるが)
そしてもし今バンドがあるのならば、迷わずバンド活動に専念して、こんな記事を読んでいないだろうと思うからだ。
今この記事を読んでいるのは、どうにか自分一人の力で、ギターで生計をたてたいと思う人だと思うのだ。
よって本記事では上のリスト2と3をプロのギタリストと定義して、それになりたい人へむけ僕なりの提案をしていくこととする。
繰り返し言うが、2と3以外の業態をプロではないと言うつもりは微塵もない。どれも一生をかけて挑んでいい仕事だと思っている。
1番必要なもの

さて本題に入る。
「プロのギタリストになるために1番必要な技術はなんですか? ソロですか? アドリブですか? バッキングですか?」
よくそうした質問を若い世代に投げかけられることがある。
たしかにそれらは大事で、無くてはならないものだ。
ただそれらだけを上達させようと努力していても、おそらくギターで生計はたてられないだろう。
プロのギタリストに必要なものは圧倒的な演奏能力ではないのだ。
絶対的に必要なものは、
アレンジ能力
である。
ソロもバッキングもアドリブもそれなりでいい。
楽曲をきらめかせ歌が感動的に聴こえれば、それでいいのだ。
残念ながら現代のミュージックシーンでは、ギターヒーローは必要とされていない。
なぜそれが必要か

ではなぜアレンジ能力が必要なのか。
まずアレンジというものの説明が必要だ。
アレンジ力とはすなわち編曲力、ドラム、ベース、ピアノ、キーボード、ストリングス、ホーンセクション等々多岐にわたる楽器の知識とそれらの構築力のことである。
これへの理解がないミュージシャンは、はっきりいって使い物にならないのだ。
言っておくが和音の概念がないドラマーも例外ではない。
なぜそこでその音を発するのかの理由づけができていない。
そればかりかストリングスの旋律に半音や全音でギターのメロを当て続け、かつ、それに気づかないプレーヤーなんかもいたりする。
かつてギターヒーロが君臨していた時代の音楽は、あまりそんなことを考えなくてよかっただろう。
バックでコードを鳴らし、歌かギターがリードをとる。それで成立していた。
だが現代の音楽でそれはまったく通用しない。(昔の音楽も大好きだけど)
残念ながら、他の楽器を無視した瞬間発生するのは
凄まじいおっさん臭
に他ならない。
ギタリストの場合

そういった観点でみると、ギターはとにかく大変である。
まず、トラック数が多い。
例えばJポップの一般的なポップロックのサビの一例をとると、
- 両サイドに歪みパワーコード(背景ようにボリュームは小さめ)
- どちらかのサイドにメインのクランチ、コードストローク
- クランチとは逆のサイドにクリーンアルペジオ
- 歌のないスペースにメロディー
という4トラックが考えられる。
1はベースの音色やプレイにより内容が変わるし、2はピアノのプレイに配慮が必要である。
3は歌やピアノのトップ、ストリングスメロディーを把握しなければ濁りを生む可能性がある。
4に関しては歌メロ、ピアノプレイ、ストリングスライン、そして自らのアルペジオにも配慮が必要だ。
そして1、2、3、4全てにドラムに対するリズムアプローチを忘れてはならないことはいうまでもない。
忘れてはならないのは、それらに配慮しながら問題なくプレイすること、ではない。
それらに配慮しながら、めちゃかっこいいプレイをすることなのだ。
あなたが、ソロが上手くなりたい、バッキングをミスなく弾けるようになりたい、ということだけを考え日々練習する人であるのなら、おそらくこれらの能力はほとんど培われていないだろう。
そしてこれらは指先の技術と同じく、長い時間と試行錯誤を経て体得するものである。
今からでも遅くないので、ぜひこれらの研鑽にも目を向けて欲しい。
ひとまずギターのことは忘れてみる

色々書いてきたが「プロになりたいです」という人がいたらまず言うのが
「DTMやれば」
である。
アレンジ力を高めるためにはこれしかない。
ギターのスキルに自信がある人でも、やってみればその難しさがわかると思う。
なにより自分でドラムやベース、ピアノ、ストリングス等を入れないといけないので、
彼等がどんな帯域でどんなプレイをしているのかを学ぶことができる。
誰々が何々をしている場合はギターはこうすればいいのかとか、逆にギターがこういうフレーズを弾きたいからこういう風に他のパートに変更してもらおうなどということが徐々にわかってくる。
そうなればしめたものである。
あなたの音楽力は確実に何倍も上がっている。
それはギターの演奏力などよりよっぽど大事なことなのだ。
速弾きとかの超絶テクはいらないの?
超絶テクはできるならできるに越したことはないが、費用対効果は悪い。
習得に時間と労力がかかるにも関わらず、あまり需要がないのだ。
もちろんそのジャンルのトップオブトップになれるなら独占できる可能性はある。
だがそれは茨の道だ。自分の人生全てそれにかけているような人間がゴロゴロいる。
そもそも世の中の音楽に耳を傾けてみて、そんな超絶テクを耳にすることは果たして多いだろうか?
ボーカロイド系の曲で一時期少しみられたが、今はほとんど耳にすることがない気がする。
あと5年後には世の中の音楽はメタルとハードロックで溢れかえってると確実に予見できるなら、練習するのもありだろう。だがその可能性はかなり薄いと僕は思う。
練習することは悪いことではないが、プロで生計を建てたいなら、勉強することが他にたくさんあるはずだ。
ちなみに仕事で速弾きを求められたことは、只の一度もないことだけは伝えておく。
ジャズやってれば、なんでも弾けると聞いたけど……?

「ジャズは難しい。だがこれを学べばなんでも弾ける。J-popなんか楽勝だよ」
20才くらいの頃、実際に聞いた言葉である。
で、僕はそれを真に受けてジャズを勉強しはじめた。
それ自体は得るべきものがあったし、理論にも強くなった。
ジャズっぽいおしゃれフレーズを求められれば対応できるようになった。
だが、
「J-popなんか楽勝だよ」
↑これだけは絶対に間違いであることだけは断言しておく。
J-popをかっこよく弾くことは難しい。前にも書いたが考えなければいけないことが膨大だ。
そして「これをこうしとけば大丈夫」というスタイルがあるようで存在しない。
ロックをいれようがボサノバをいれようがカントリーをいれようが童謡をいれようがEDMをいれようが、なにをしてもいいという変な音楽がJ-popである。
自由度というのはそのまま難易度となって跳ね返ってくるのだ。
ジャズやっとけば楽勝なのはあくまでコードとメロディーの理解に対する部分である。
popsはpopsでしっかり学ぶ姿勢が大事なのだ。
でもギターのテクニックで、強いていうなら?

ギターのテクニックなんかよりアレンジ力だよ、と散々いってきた。
まあそれは分かったから「テクニックでなにか必要なこと少しぐらい教えてよ」という人のために、
強いていうならこのテクだよ、というのを記そうと思う。
それは
アルペジオをリズムよく正確に弾けること
である。
「は? いやそんなん弾けるし。他になんかすごい秘訣とかこれ弾ければ大丈夫とかないのかよ?」
って思った人、もう一度上から読み直したほうがいい。
そしてそれでも分からなければもうなにも言うまい。
ついでにアルペジオをナメたままでいるといい。
ただ断言するけれど、もしギターの仕事をもらった時、間違いなく僕の言葉を思い出して後悔することになる。
僕は若い頃テクニックには自信があった。
だが勿論基礎をおろそかにしている気もなかった。
バッキングの大事さ難しさは先輩や書籍から知らされていたし、練習もしていた。
だが初めてプロのスタジオでレコーディングした時、自分のあまりの弾けなさに唖然としたのだ。
コードチェンジの際のノイズ、音の繋がり、不要な開放弦による濁り、ピッキングの不均一さ、音作りの甘さ等々、クリアな音で眼前につきつけらる。
なかでも苦労したのがアルペジオである。
メトロノームに合わせて淡々と弾いていたのではダメだったのだ。
ソロで聴いても躍動するほどグルーヴしていないと、普段よくCDで聴いていた「普通のアルペジオ」に聴こえない。
しかも前述した通り、他の楽器の帯域を知らない上に意識もしてなかったので、なんだか突出したり引っ込んだり、散々な出来だった。
まさに鼻っ柱を叩き折られるというやつだった。
ま、あの経験は今ではしていてよかったなと思えるし、読者の皆さんにも苦くても大事な経験になるかもしれない。そんな経験をしたら、もう一度この記事を読みに来て欲しいと思う。
アルペジオ、今よりもっと練習しといたほうがいいよ。
まとめ

結局まとめると、プロのギタリストになるために必要なこと、それはテクニックではなくアレンジ力なのだ。
思い返してみると、ギターオタクのような人が録音したギターより、ロクにギターの弾けないキーボーディストがデモで申し訳なさそうにいれたギターの方が魅力的なことが多々ある。
キーボーディストはピアノ、オルガン、ストリングス、ブラス、リードシンセ等々を一人で担当することが多いため、アレンジ力の高い人が多い。というかアレンジャーに多い。
そういう人が弾いていれたギターはツボをついており、とても効果的に響くことが多いのだ。(プレイはめちゃくちゃ下手くそなのに)
あなたがある程度基礎的なギターの演奏力を持っているなら、ぜひパソコンとDAWソフトとオーディオインターフェイスを用意し、すぐにでもDTMを開始することを強くおすすめする。
そしてアレンジ力を高めた方が、あなたのギターは何倍も輝くことだろう。
というか今時自宅案件に対応できないギタリストは、仕事がとれないだろう。
また別記事で宅録についてはとりあげるとする。
今記事では僕が1番大切と思う、ギタリストの音楽に対する考え方を述べさせていただいた。
テクニックに走る人は多い。
練習さえしていれば、先の見えない状況もいつかどうにかなるとかろうじて思えるからなのだろう。
しかしそれは幻想に近い。
ギタリストは音楽家なのだ。
音楽力を高めないギター弾きに仕事はない。
ぜひ多角的に分析するクセをつけてほしいと僕は思う。
きっとより個性的なギターが弾けるようになるはずだ。